不動産投資は節税にならないって本当?
節税の仕組みをわかりやすく解説

「不動産投資は節税にならない」。このような説明を聞いたことはないでしょうか。結論を言えば、不動産投資は節税になる場合とならない場合があります。この記事では、どのようなケースなら不動産投資が節税につながるのか、どんな場合なら節税にならないのかを説明します。所得税や相続税など税金の種類で異なる節税の仕組みや、不動産投資を始める際の注意点もわかりやすく解説しますので、節税目的で不動産投資を検討している方は参考にしてください。

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    不動産投資は節税にならないって本当?

    不動産投資には大きく分けて次の2つの面で節税効果があります。

    ① 1年間の全所得にかかる税金を減らす
    ② 相続税評価額を下げて税金を減らす

    1年間の全所得にかかる税金を減らすというのは、「減価償却費」の効果を利用して、所得税や住民税を軽減することを意味します。減価償却費とは、建物や設備といった固定資産の価値が時間の経過とともに減少するとの考えに基づく会計上の概念です。固定資産の購入費用を、実際にお金が出ていく購入時に一度に経費処理するのではなく、耐用年数に応じて複数年に分割し、毎年計上していきます。

    例えば、建物部分の価格が5,000万円のアパートを購入し、その耐用年数が10年だった場合、年間500万円(=5,000万円÷10年)の減価償却費を計上できます。この500万円が、家賃収入から運営にかかる他の支出(借入金の元金返済分を除く)を差し引いた残りより大きければ、不動産所得は赤字となり、その赤字額を給与所得や事業所得など他の所得から差し引けるのです。これを損益通算といいます。

    重要なのは、赤字を生み出す減価償却費の計上時点では実際のお金の動きがないことです。つまり、手もとに資金を残しながら支払う税金を抑えられるのが、減価償却の最も大きな効果となります。

    2つ目の相続税評価額を下げる効果は、相続税と贈与税の額を計算する際の基礎となる評価額について、不動産が現預金などより低く見積もられる特徴を活用するものです。次章の相続税の項目で詳しく解説します。

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    不動産投資における節税の仕組み

    不動産投資における節税の仕組みは、税金の種類によって異なります。ここでは、所得税、相続税、住民税、法人税、贈与税について順番に解説します。

    所得税

    所得税は、個人の所得に対して課される税金です。1年間の所得から所得控除を差し引いた課税所得と、税率を基に算出します。不動産所得、事業所得、給与所得、譲渡所得など10種類に分かれています。税率は累進課税制度となっており、所得が増えるにつれて税率が高くなる仕組みです。

    所得税の税率と控除額

    課税所得税率控除額
    1,000~194万9,000円5%0円
    195万~329万9,000円10%9万7,500円
    330万~694万9,000円20%42万7,500円
    695万~899万9,000円23%63万6,000円
    900万~1,799万9,000円33%153万6,000円
    1,800万~3,999万9,000円40%279万6,000円
    4,000万円以上45%479万6,000円

    不動産所得で減価償却費を計上して赤字になった場合、他の所得と損益通算することで納税額を抑えられます。その効果は、累進課税の影響でさらに大きくなる場合があります。

    例えば、損益通算しない場合、所得金額が900万円の方に適用される税率は33%です。これに対し、不動産所得で赤字が発生して損益通算した結果、所得が600万円になったとすると、税率は20%まで下がります。損益通算により、課税所得が900万円から600万円に下がる効果に加え、税率も33%から20%まで下がるケースもありえるのです。

    ここで注意が必要なのは、減価償却費は建物の売却後に譲渡所得税を納める時まで、課税を繰り延べる効果を持っているという点です。譲渡所得税の算定の基礎となる譲渡所得を計算する際は、売却価格から物件の取得費と譲渡費用を差し引くことになっています。

    譲渡所得=売却価格-取得費-譲渡費用

    取得費とは、売却した不動産の購入代金や購入手数料などを合計したもので、所有期間中に計上した減価償却費を差し引くことになっています。つまり、計上してきた減価償却費が多ければ多いほど、譲渡所得が大きくなり、納税額が増える仕組みとなるのです。

    個人が不動産を売却して利益を得た場合の譲渡所得には、短期譲渡所得と長期譲渡所得があり、それぞれ税率が異なります。短期譲渡所得は譲渡した年の1月1日における所有期間が5年以下のものをいい、長期譲渡所得は5年を超えるものです。税率は短期が39.63%(復興特別所得税と住民税も含む)、長期が20.315%(同)と差が大きく、特に長期譲渡の場合は、所有中に損益通算で課税を繰り延べておくほうが節税となる可能性が高まるでしょう。

    相続税

    相続税は、亡くなった親や配偶者などからお金や不動産といった財産を相続することになった際、その財産にかけられる税金です。遺産額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合に課せられます。法定相続人は、民法で定められた相続人で、亡くなった方の配偶者や子などが対象です。取得した財産の金額で税率が上がる累進課税となっています。

    相続税の税率と控除額

    法定相続分に応じた取得金額税率控除額
    1,000万円以下10%
    1,000万円超~3,000万円以下15%50万円
    3,000万円超~5,000万円以下20%200万円
    5,000万円超~1億円以下30%700万円
    1億円超~2億円以下40%1,700万円
    2億円超~3億円以下45%2,700万円
    3億円超~6億円以下50%4,200万円
    6億円超55%7,200万円

    不動産投資が相続税の節税になるのは、相続による取得金額の基準となる相続税評価額が、現金や預金などに比べて小さくなるためです。

    例えば、現金6,000万円を相続した場合の相続税評価額は6,000万円となります。しかし、不動産の場合は時価ではなく、土地なら原則として路線価が、建物なら固定資産税評価額が相続税評価額となります。

    路線価は、土地が面する道路について、その道路に面する宅地の1平方メートル当たりの価額を示したもので、国税庁が毎年7月に公表します。固定資産税評価額は、自治体の固定資産課税台帳に記載された土地や家屋の評価額です。路線価は市場価格の80%程度、固定資産税評価額は市場価格の70%程度とされるのが一般的です。

    つまり、時価で6,000万円相当の価値がある不動産を相続しても、その不動産が土地なら4,800万円程度、建物なら4,200万円程度に圧縮されるのです。このケースでは、税率は30%から20%に、控除額は700万円から200万円に下がり、節税効果がさらに大きくなります。

    さらに、不動産の相続税が通常より抑えられるケースとして次の2つがあります。

    例えば、貸家の敷地として使われている土地(貸家建付地)を賃貸している場合の評価額は、自ら使うケースの相続税評価額から、借地権割合や借家権割合そして賃貸している割合を考慮した額を差し引いた額となります。

    貸家建付地の評価額=自用地としての評価額—(自用地としての評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

    借地権割合は、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で確認できます。借家権割合は30%とされています。賃貸割合は、建物の床面積に対する賃貸されている割合です。

    建物を賃貸している場合の評価額は、固定資産税評価額から、借家権割合と賃貸割合を差し引いて計算します。

    賃貸している建物の評価額=固定資産税評価額-(固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合)

    次に、小規模宅地等の特例が使える場合を解説します。小規模宅地等の特例は、亡くなった方(被相続人)の自宅用や事業用に使われていた宅地を相続する際に、一定の条件下で限度面積までは評価額が減額される制度です。

    被相続人の自宅に使われていた宅地なら330平方メートルを限度に評価額が80%減額されます。被相続人の賃貸事業に使われていた宅地なら200平方メートルが限度で、減額幅は50%です。賃貸不動産の相続で特例の適用について判断が難しい場合などは、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

    住民税

    住民税は、都道府県や市町村が行政サービスを維持するため、地域住民に課す地方税です。個人が納める住民税には、所得に応じて負担する「所得割」と、定額で負担する「均等割」の2種類あります。

    所得割は、前年の所得に対して10%(道府県民税4%、市町村民税6%)と税率が決まっており、均等割は5,000円(道府県民税1,500円、市町村民税3,500円)が基準です。これを踏まえ、都道府県や市町村ごとの事情に応じて税額が決められています。

    住民税には所得によって税額が変動する所得割部分があるため、所得税と同様、減価償却費を計上して不動産所得を赤字とし、損益通算することで税額を抑える効果を期待できます。ただ、税率が10%で一定のため、超過累進税率が採用されている所得税ほどの大きな節税効果はありません。

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    法人税

    法人税は、法人が事業活動で得た所得に課される税金です。収入から経費・損失を差し引いた課税所得に税率をかけ、税額控除のうえ算出します。税率は、株式会社や合同会社などの普通法人の場合、資本金などで次のように分類されます。

    普通法人の法人税率

    資本金課税所得税率
    1億円以下800万円以下の部分15%
    800万円超の部分23.2%
    1億円超23.2%

    なお、日本では企業の税負担軽減を通して経済活性化を図る狙いなどから、税率が段階的に下げられてきました。2018年度(平成30年度)には、法人税や法人住民税、法人事業税などを合わせた法人税の実効税率は29.74%となっています。

    法人税は、本業からの事業収入も不動産賃貸事業からの収入もまとめて計算し、経費などをマイナスして課税所得を算出します。このため、不動産賃貸事業が減価償却費の計上で赤字となる場合、資金を手もとに残しながら全体の課税所得を抑える節税効果を出すことが可能です。

    個人事業で所得税の損益通算を行う場合は、配当所得や一時所得、雑所得の赤字などは損益通算が認められておらず他の所得の黒字と相殺できません。法人の方が、個人の所得税のように損益通算できるものとできないものを分ける必要がない分、税負担も軽くなるケースがあるのが利点といえるでしょう。

    贈与税

    贈与税は、個人から財産の贈与を受けたときにかかる税金です。課税方法には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類あります。それぞれどのような仕組みで不動産投資によって節税となるのかを解説します。

    暦年課税は、1月1日から12月31日までの間に贈与を受けた財産の合計額から、基礎控除額110万円を差し引いた残りの額に税率をかける方式です。つまり、合計が基礎控除額の110万円以下なら贈与税はかからないことになります。

    暦年課税の場合で不動産投資が節税になるのは、贈与税を計算する時の不動産評価額の把握に相続税評価額を用いるからです。相続税と同様、土地の評価額は原則、路線価を基に算出され、建物の評価額は固定資産税評価額が使われます。

    路線価は市場価格の80%程度、固定資産税評価額は市場価格の70%程度ですので、現預金を贈与されるよりも税額が抑えられることになります。さらに、税率は課税価格が上がるにつれて上昇します。評価額が抑えられることで、現預金などで贈与するより税率も下がる可能性があるでしょう。税率と控除を示す速算表は次のとおりです。

    贈与税率と控除額(夫婦間や親から未成年の子への贈与の場合)

    基礎控除後の課税価格税率控除額
    200万円以下10%
    300万円以下15%10万円
    400万円以下20%25万円
    600万円以下30%65万円
    1,000万円以下40%125万円
    1,500万円以下45%175万円
    3,000万円以下50%250万円
    3,000万円超55%400万円

    例えば、現金1,800万円を贈与すると、基礎控除後の課税価格は1,690万円(=1,800万円-110万円)ですので、贈与税額は595万円(=1,690万円×50% - 250万円)です。

    一方、時価1,800万円(路線価ベースで1,440万円)の土地を贈与する場合は、基礎控除後の課税価格は1,330万円(=1,440万円ー110万円)となります。この際の贈与税額は423.5万円(=1,330万円×45%-175万円)に下がります。

    さらに、賃貸用不動産を贈与する場合の贈与税評価額は、相続税と同様にさらに下がります。貸家建付地の評価額は、自用の土地の相続税評価額から借地権割合や借家権割合、賃貸割合を考慮した額を差し引き、貸家の評価額は固定資産税評価額から借家権割合と賃貸割合を差し引く計算を行うためです。

    贈与税のもう1つの課税方法は相続時精算課税です。相続時精算課税は、贈与を受けた方(受贈者)が2,500万円まで贈与税を納めずに贈与を受けられる制度です。贈与した方が亡くなった時に、その贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額とを合計した金額を基に、相続税額を計算します。

    納税を先送りする効果に加え、贈与財産の価値が上昇する場合の節税が期待できます。相続時精算課税を使えば相続時の贈与財産の価額は贈与した時点で計算できるためです。逆に贈与時より相続時のほうが評価額が下落している場合は、贈与しない場合と比べると納税額が高くなる可能性があります。


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      不動産投資における節税の落とし穴

      不動産投資における節税の効果は魅力的ですが、そこに潜む「落とし穴」には注意しなければなりません。節税目的を意識し過ぎて賃貸用不動産を購入すると、想定しない失敗をしてしまう可能性があります。さまざまなケースで失敗のリスクを避けるためにも、節税目的で不動産投資を行う場合は専門家に相談することも有効です。

      事例①

      不動産投資における落とし穴の事例の1つ目は、空室リスクです。会社役員のAさんは、減価償却費の計上による節税と、賃貸収入による安定したキャッシュフローを目的に中古アパートを購入しました。

      しかし、数年後、徒歩圏内にあった大学が移転すると途端に空室が長期化するようになってしまいました。Aさんの家賃収入は半減状態が続きます。減価償却費の計上で手もとにお金を残しながら節税しようと考えていたにも関わらず、そもそも家賃収入が入らなくなり、常に資金が足りない状態になってしまいました。

      節税を目指す不動産投資では、賃貸事業としての健全性も重要です。長期の空室を避けるためにも、近くの大型施設に依存した物件には注意が必要です。退去は一定の割合で発生しますので、空室はやむをえませんが、例え空室になっても入居者を見つけやすいエリアや物件を見極める力が不可欠になります。

      例えば、交通の便が良く、商業施設や医療機関が近いなど、入居者が生活しやすい条件を備えた物件を選ぶことが重要です。仮に空室になった場合でも、需要に沿った対策を施せる場合もあります。宅配ボックスの設置やインターネット環境の整備、エアコンの設置など、入居者に気に入ってもらうサービスを追加することも効果的でしょう。

      事例②

      入居者トラブルも、不動産投資における節税の落とし穴といえます。医師のBさんは、節税のため区分マンションを購入しました。しかし、購入してしばらくして入居者からの家賃の入金が途絶えてしまいます。管理会社を通じて入金を促しても応じてもらえず、やむを得ず、弁護士に相談しながら退去してもらうための手続きをとることになりました。

      お金を手もとに置いておくための不動産投資のはずが、家賃収入が入らないだけでなく、訴訟費用などで逆に想定しない支出が必要になってしまったのです。

      家賃滞納のリスクを軽減するためには、入居者審査を厳格に行うことが重要です。雇用状況や信用情報の確認を徹底することで、滞納リスクの高い入居者を選別できます。家賃保証会社を利用し、滞納リスクを軽減することも有効でしょう。

      事例③

      返済プランがあまく、不動産投資による節税を果たせない事例もあります。大手上場企業で管理職を務めるCさんは、多忙なあまり、物件購入時のシミュレーションを深く検討しないまま4世帯が入る1棟アパートを購入しました。

      借入を早く減らそうと返済期間を10年と短めにしたため毎月の返済額が多く、1室空室となっただけでアパートからの収入では返済が難しくなります。家賃収入から支出を引いたキャッシュフローは赤字が続き、Cさんは返済額を抑えるため、一部繰り上げ返済するか、返済期間を延長するかで金融機関と調整を行っています。

      融資を引いて不動産投資を行う際には、返済期間だけでなく、金利や借入額についても慎重な検討が求められます。金利が高過ぎたり、借入額が多過ぎたりすると、キャッシュフローが圧迫されます。金利や返済期間といった条件は、複数の金融機関と交渉することでより有利な条件の融資を見つけることも可能です。借入額を抑えるには、物件の2、3割程度の自己資金投入も有効でしょう。

      ただ、返済期間については注意点もあります。返済期間を長く設定するとそれだけ元金の返済速度も遅くなる点です。将来的に売却をする際、売却額より残債のほうが多いと売るに売れない状態となる恐れもあります。不動産投資に詳しい専門家のアドバイスを受けるなどして、慎重なシミュレーションを行うことが不可欠です。

      事例④

      不動産投資は十分学びを深めてから行うことが重要です。これまで説明してきた事例のほかにも、不動産投資ではさまざまなリスクが潜んでいます。例えば、会社員のDさんが高利回りであることを重視して購入した築古アパートは、購入して1年もしないうちに雨漏りが確認され、屋根の修繕が必要になりました。外壁のはがれも目立ち、足場を組んで屋根と外壁両方の大規模補修工事を行うと合計200万円台の想定外のお金が出ていきます。

      外装だけでなく、不動産投資では給湯器やエアコンなど室内設備の更新期間が定期的に訪れます。これらは賃貸物件の魅力を維持するために不可欠ですが、購入する時は物件価格ばかりに目が行きがちになってしまうので注意が必要です。

      不動産投資ではこのほか、家賃下落や金利上昇などさまざまなリスクがあることを学び、想定に入れておく姿勢が欠かせません。不動産投資を行う場合は、ただ節税効果を追求するだけでなく、物件の維持管理費用、市場の変動リスク、融資の条件など、幅広い知識を学んだり、専門家の助言を受けたりしながら進めるのが成功の鍵です。

      不動産投資で節税の効果が出やすい物件

      不動産投資で節税効果の出やすい物件について解説します。節税効果が出やすい物件の特徴は次のとおりです。

      不動産投資で節税の効果が出やすい物件

      不動産投資で節税効果を高めるには、お金を残しつつ収支を赤字にするために減価償却費を大きく取れる物件であることがポイントです。それに沿った物件の特徴が、上記の3つの条件です。1つずつ解説します。

      まず、木造物件の減価償却費が大きくなりやすいのは、下の表のように他の構造に比べて法定耐用年数が短いためです。

      主な住宅の法定耐用年数

      構造耐用年数
      木造22年
      鉄筋コンクリート(RC)造47年
      鉄骨造厚さ4ミリ超34年
      厚さ3ミリ超4ミリ以下27年
      厚さ3ミリ以下19年

      耐用年数が短いほど、1年当たりの減価償却費が多くなるため、RC造に比べると木造のほうが物件保有中の所得を圧縮する効果が大きくなります。

      築古物件だと節税効果がさらに高まります。国税庁によると、中古資産の耐用年数の計算は次のように行います。

      1. 法定耐用年数の全部を経過した資産:法定耐用年数×20%
      2. 法定耐用年数の一部を経過した資産:法定耐用年数-経過年数+経過年数×20%

      例えば、築10年の木造物件の場合、減価償却費を計算する際の耐用年数は2の式により14年(=22年-10年+10年×20%)です。これに対し、法定耐用年数を経過した築25年の木造物件を購入すると、1の式により耐用年数は4年(=22年×20%)となります。このため、築25年のほうが1年当たりの減価償却費を大きくする効果があることが分かります。

      節税目的で不動産を購入する際は、建物比率の高い物件を選ぶことも減価償却費を多く計上するために有効です。減価償却の対象は建物のみで、土地は対象外です。中古物件の売買では、土地と建物の価格割合は話し合いによって決まります。ただし、合理的な根拠が必要となるため、固定資産税評価額の土地と建物の割合を参考に案分するケースが多いです。

      不動産投資で節税の効果が出にくい物件

      次に、不動産投資で節税効果が出にくい物件を紹介します。節税しにくい物件は、先述した節税効果が出やすい物件と反対の性質を持つ不動産です。

      不動産投資で節税の効果が出にくい物件

      RC造の法定耐用年数は47年と木造の22年より倍以上、法定耐用年数が長いため、1年当たりの減価償却費を木造ほどは取れません。新築や築年数が浅い物件も、耐用年数が長く残ることから、やはり築古より1年当たりの減価償却費が小さくなり、不動産所得の節税効果は小さくなります。

      不動産投資の初年度は、登記費用や融資事務手数料、不動産取得税など比較的大きな支出を一括で経費計上するため節税効果が出ることも多いです。ただ、RC造や新築・築浅物件などは、2年目以降の節税効果が木造や築古に比べて小さくなる可能性もあることに注意してください。

      さらに、土地より建物価格の割合が小さい物件も、節税しにくい物件です。減価償却費の計算の基準となる建物価格の割合が、投資額に対して小さいほど、減価償却費を活用した節税効果は薄れます。

      不動産投資で節税の効果が出やすい人

      次に、「人」に焦点を当てて節税効果が出やすいケースを確認します。不動産投資で節税効果が出やすい人の特徴は次のとおりです。

      不動産投資で節税効果が出やすい人

      課税所得が900万円以上となると、所得税率は23%から33%へ大きく上がります。例えば、減価償却費の計上による不動産所得の赤字が100万円だった場合、損益通算によって節税できる額は、33万円(=100万円×33%)です。税率が23%の場合の23万円(=100万円×23%)と比べ、節税額が大きくなることが分かります。

      また、不動産売却時の節税効果も大きくできます。所有期間5年超の不動産を売却した場合の譲渡所得税は、約20%です。課税所得900万円以上の方の所得税率は33%ですので、減価償却費の計上による課税の繰り延べで13%分の節税が可能になります。

      相続税対策が必要な方も節税効果が出やすいといえます。相続財産が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)より大きくなればなるほど税率も上がりますので、現金や預金など時価で評価される資産を保有しているより、評価額が下がる不動産で保有する方が相続税の計算で有利になります。

      不動産投資で節税の効果が出にくい人

      不動産投資で節税の効果が出にくい人は次のとおりです。

      不動産投資で節税効果がでにくい人

      課税所得が900万円未満の方の所得税率は、900万円以上の場合の33%から10ポイント下がって23%です。減価償却費の計上による損益通算で課税を繰り延べても、不動産売却時の長期譲渡所得の税率である約20%と大きな差がないことから、節税効果は出にくい状態となります。課税所得が695万円未満の場合は税率が20%ですので、節税効果はほぼなくなります。

      また、相続する資産がなく、相続税対策が不要な方も不動産投資で節税効果が出にくいです。基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)より財産が小さければ相続税を納める必要もありませんので、節税のために不動産投資を行う理由は薄まります。

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      まとめ

      不動産投資を節税目的で行うには、減価償却費を大きく取れる木造物件や築古物件を選ぶのが有効であることなどを確認してきました。ご自身の収入や資産背景によっても節税効果は左右されるため、不動産投資がどのような仕組みで節税につながるのかを十分理解してから始めてください。一方で空室や返済プランなどをめぐる失敗事例も踏まえると、節税だけを目的に不動産投資をすることは非常にリスクが高いと言えます。手元に現金を残すことで資産を増やすつもりが、逆の結果を招く可能性も高く注意が必要です。投資はあくまで資産を増やすことが目的なので、専門家の意見も参考にしながら不動産投資を検討することをおすすめします。